お湯がぬるくなるまでに、花を飾る 〜こどおば部屋の窓辺で〜

人や物の名前が出てこない。脳を活性化させるのだ!!アウトプット開始!!

【入れ歯体験記】アラフィフ女子が入れ歯を隠して二人旅に出た話(D+6〜D+8)

おはこんばんちわ。みらくるあっちんです。  

 

さて、本日は一大決心のもと、朝早くから自宅にてあの「デンチャー(愛すべき入れ歯)」を厳かにドッキングいたしました。なぜならこれから、気を使わない30年来の友人との二人旅が始まるからでございます。

 

D+6 滑舌崩壊二人旅!夕飯が終わったら速攻でハズす。と私は誓った

旅の始まりといえば、やはりこれ。特急列車に乗り込むやいなや、朝からプシュッとアルコールを嗜む背徳感。これぞ大人の嗜みですわ。 車窓の景色を眺めながら、おつまみ代わりに買っておいた「たまごサンド」をうっとりとほおばった、その瞬間。

 

……ちょ!!!!!!

 

油断いたしました。あろうことか、あのフワフワの優しさの塊であるはずのたまごサンドに、デンチャーを持っていかれそうになったのです。たまごサンド、牙を剥く。なんという不覚。

 

もちろん、ドッキング中の私の滑舌は相変わらず壊滅的でございます。

友人に「今さ、歯の治療中だからちょっと話しづらいんだよね〜〜」と、それらしいすっとぼけた言い訳をかましてみたのですが、まぁ、聞き取りづらすぎて速攻で大爆発的な爆笑をさらいました。

 

いいのよ、憐れみの目を向けられるより、笑い飛ばしてくれる方がどれだけ救われるか。持つべきものは友でございます。

 

お散歩の途中、突如として現れた、木が鬱蒼と茂るおとぎ話のような素敵な庭園。

その中に佇む甘味処で、私は優雅にかき氷を注文いたしました。

 

……バカね、私のバカ。自分が今、口内に異物を召喚していることを綺麗さっぱり忘れておりました。かき氷がガリガリしているという厳然たる事実を、脳内から抹消していたのです。 量もしっかり多い上に、一口ごとにデンチャーがガリガリと反乱を起こすため、一向に食べ終えられません。

心の中で

 

「デンチャー、本当に不便……!」

 

と咽び泣きながら、冷たい氷をただ咀嚼するマシーンと化しておりました。

 

その後のおやつ(という名の軽食)はメンチカツと、らっきょう。こちらは意外にも、何一つ問題なくワシワシと完食。どういうシステムなのかしらね。

 

ちなみに、ポリデントは初日に実験的に試したっきり、その後は引き出しの奥で永眠しております。

 

 

しかし、朝から晩まで丸一日中デンチャーをつけ続けたのは、私の歴史上これが初めてのこと。夕方になる頃には、装置を引っ掛けている健気な犬歯が、なんとなくズキズキと悲鳴を上げ始めました。

 

やはり、私の小さい歯にかかる負担は相当なものだったのでしょう。

 

 

これから宿での楽しい夕飯が待っているというのに。私は固く心に誓いました。 「夕飯が終わった瞬間、速攻で取り外してやる……!!!!」と。

 

幸いにも、今回泊まった伊東園系列のホテルはご家族連れや先輩高齢者の方が多く、バイキングのラインナップも実に私に寄り添った「柔らかくて食べやすいもの」ばかりでございました。

 

 

ありがとう、伊東園。 そしてデザートを胃袋に収めた数分後、私はホテルのトイレへと滑り込み、他人の目を盗んでマッハの速度でデンチャーを解除。マイ「秘密の宝箱」へとこっそりしまい込みました。

 

一日中つけっぱなしなんて、私の繊細な精神には到底無理なお話でしたわ。だって、話は伝わらないし、二人旅で一言も喋らないわけにはいかないじゃないの。

 

 

 

D+7 バイキング40分一本勝負!30年来の友に見せぬアラフィフの意地

朝イチ、目覚めると同時に、こっそりとデンチャーを再ドッキング。 モーニングもバイキング形式でございました。制限時間は40分。普通なら余裕でペロリと食べ終えられる時間ですけれど、悲しいかな、デンチャーのせいで咀嚼速度が著しく低下しているアラフィフ。

 

結局、40分まるまるフル稼働で居座り、時間ギリギリでどうにか完食いたしました。

 

それにしても、相変わらず食事の「最初のひと噛み」というのは心臓がバクバクするほど緊張いたします。何が怖いって、器具を引っ掛けている他の自前の歯が、根こそぎ持って行かれそうな恐怖。常に口内がパニック映画。

 

さらに、今まで何もなかった空間にプラスチックの板が居座ったせいで、ピンクの樹脂製のニセ歯茎が、私の本物の頬の肉をずっと内側からフニフニと挟み込んでいる模様。

夜になると、一日中挟まれ続けたことによる禍々しい違和感だけが、しっかりと残るのです。今はまだ痛くないけれど、これ以上挟まれ続けたら、確実に血を見るわね……という絶妙な緊迫感。

 

 

あ、ホテルのウェルカムお菓子として置いてあった「ゆべし」は、見た目の割に粘着力が皆無で、現役の歯を脅かすことなく美味しくいただけました。ゆべし、お前はいい奴だな。

 

お昼にはめちゃくちゃ美味しいラーメンを堪能(当たり前に、普通の硬さのものを美味しく食べられる幸せを噛み締めましたわ)。

 

「これで今回の旅の食ミッションはすべて終了……!」と安堵したのも束の間、帰りの電車の中で突如として「宴会」が開催される運びとなりました。 友人が買い込んできたおつまみは、まさかの「ポリンキー」。 三角形の秘密でお馴染みの、あのサクサクしたスナックです。ポリンキーを前にして、さすがに「じゃあ私、今から歯を外すね!」とやるわけにはまいりません。はめるか、外すか。私のプライドをかけた二者択一。私ははめっぱなしで闘うことを選びました。

 

 

電車の旅も後半に差し掛かった頃、友人が席を立ってトイレに向かった隙を見計らい、私は座席で電光石火の如くデンチャーを取り外しました。そしてすぐさま、お馴染みの秘密の宝箱へインぬ(in)。

 

 

ああ、スッキリした……! 口内を吹き抜ける、圧倒的な解放感の風。あとは手元に残った聖なる液体(お酒)をただ喉の奥へ流し込むだけですので、もう本日の旅路にデンチャーが再登場することはございません。バイバイ。

 

 

この、デンチャーと四六時中添い遂げた暗黒の2日間。 旅の楽しさの合間に、「言葉が伝わらない」「思い切り食べ物を噛み砕くことができない」という、自分が失ってしまったものの大きさを、嫌というほど再実感させられる結果となりました。

 

「食べる時だけ装着すればいいじゃない?」とお思いになるでしょう? けれど、楽しい食事の席で、目の前で「ちょっと待ってね、今からはめるから!」と口を大きく開けて装置をガチャガチャやるのは、アラフィフ乙女のプライドがさすがに激しく拒絶いたしますの。そして1日に何回もドッキングを繰り返したら残り少ない生存している歯が持ってかれそうで怖い。なので、はめっぱなしか、外しっぱなしの二択になる。これが現実。

 

しかし、ストイックに付け続けたことで、今後の戦いの方針が何となく見えてまいりました。 今までの「家での夕飯時しか付けない」「会社には付けていかない」というヌルい生活では決して見えてこなかった、デンチャーの真の生態がだいぶ分かったのです。気を使わない30年来の友人だったからこそ、この過酷な臨床実験ができました。感謝。

 

 

ちなみに、友人へのカミングアウトは最後まで固辞いたしました。 だって、私の未来にはまだ「高額インプラント」「お高いスマイルデンチャー」「上顎を金属にするサイボーグ仕様」といった、富豪への選択肢が残されているのですもの。バレていないうちは、わざわざ自己申告する必要なんてよろしくてよ。

 

D+8 ストイックな休日ドッキング。噛むというより「挟む」の虚無

旅の疲れが一気に押し寄せた休日。 お昼まで何も食べず、以前に歯医者でいただいたマウスピースを装着して、昼過ぎまでベッドの中でゴロゴロと歯茎を休ませる自堕落な時間を過ごしました。

 

13時、意を決してデンチャーを装着。 お昼ご飯は極めて柔らかいメニューでしたので、ぶっちゃけ「すっぴん歯」のままでも余裕でいけたのですが、そこは自分を追い込むタイプの私。デンチャーに慣れるため、ストイックに本日もドッキングを敢行いたしました。

 

やっぱりね、最初の一口目はゆっくりと神聖な緊張感を持って噛まざるを得ません。 「噛む」とは言いますけれど、その実態は、口の中のプラスチック製の「道具」と、自分の下の歯で食べ物を挟み込んでいる、というだけの無機質な感覚。あ、これがデンチャーの宿命(さだめ)なのね、と深く理解いたしました。

 

当たり前ですけれど、器具自体には神経が通っておりませんので、今自分が本当に咀嚼できているのかどうか、感覚としてはよく分かりません。虚無を噛んでいる気分。

 

ちなみに、現時点で私が選ぶ「最も食べやすい食材」の金メダルは、圧倒的に「レタス」でございます。 理由は極めてシンプル。サクッと小気味よく噛めて、一瞬でバラバラに分裂してくれるから。 歯にベタベタと張り付くこともなく、ただひたすらに砕け散っていく優等生。

 

「ポテトチップスも同じでは?」と思われるかもしれませんが、あやつらは噛み進めていくうちに口内の水分を奪い、恐ろしい粘度を増して歯の裏にくっついてくる「罠」を秘めているのでNGです。食べるけども。

 

今日は装着したまま、うっかりベッドで寝落ちして昼寝をぶっこいてしまいましたが、特に口内で爆発事故が起きることもなく無事でした。

 

ただ、口を閉じている間、常に舌の表面に上顎を覆うプラスチックの板がコンタクトしてくるあの不快感。「……これは不快ではない。不快ではない。私は今、高級ホテルの天井を舐めているのだ」と自分に激しく言い聞かせれば、まぁ、過ごせなくはありません。

つづく