お湯がぬるくなるまでに、花を飾る 〜こどおば部屋の窓辺で〜

人や物の名前が出てこない。脳を活性化させるのだ!!アウトプット開始!!

【入れ歯体験記】アラフィフ女子のリアルな数日間。滑舌が絶望すぎて「デンチャー」が「ベンチャー」に聞こえる件

おはこんばんちわ。みらくるあっちんです。

 

とうとう私の口内に、例の巨大なプラスチックの城――もとい「保険適用バネ付き入れ歯」が落成いたしました。

 

www.miracle-acchin.com

 

 

これから、このニューギアを装着して過ごした絶望と微かな希望の記録を、3回くらいに分けてじっくりとネットの海に放流していこうと思います。
今回はまず、激動の「D+2」までの記録でございます。

 

D-DAY:ウキウキからの垂直落下
歯医者までの道、実はちょっとだけウキウキ、ワクワクしていたのです。新しいガジェットを手に入れる大人のような、あるいは初めての舞踏会を控えた乙女のような高揚感。

 

……けれど、人間というのは、期待値が高ければ高いほど、落差という名の奈落に突き落とされる生き物なのよね。
帰宅してじっくり向き合ってみたら、まあ、落ち込むこと、落ち込むこと。

 

何より食欲が一切わかない。

 

実験的に私の大好物である「堅あげポテト」を優雅につまんでみたのですけれど、これがもう全然うまく食べられない。それどころか、容赦なく入れ歯の隙間に強固なポテトの破片が侵入してきて痛いのなんの。

 

美意識もへったくれもなくなり、何もかもが死ぬほどめんどくさくなって、結局その日の夕飯はカップヌードルというジャンキーな結末を迎えました。

 

私の口の中は、現在プラスチックで大渋滞。
しかもこれ、外そうと思ってもコツが掴めず、なかなかうまく外せないの。私の体の一部になったつもりかしら?図々しいにもほどがあるわ!

 

D+1(昼):職場での沈黙と、そうめんの抱擁
さて、明くる日。
何を隠そう私の生業は、1日に100件近くの電話をさばくお仕事。
自分の声を鏡で聞いてみて確信しました。これは「したったらず♡」なんていう、あざとくて可愛い呼び名で許されるレベルではない。あまりにも絶望的な滑舌。

これでお客様の電話に出たら放送事故。失業の二文字が脳裏をよぎる。


そう判断した私は、仕事中は潔く入れ歯を装着せず、自宅の宝箱に封印して出勤いたしました。

 

お昼ご飯はそうめん。
そうなの、歯がなかろうが、そうめんは私を裏切らない。歯茎だけで優しく受け止められる食べ物をちゅるちゅるとすすりながら、私は日中の仮面舞踏会を乗り切ったのでございます。

 

 D+1(夜):19時のドッキングと、セブンイレブンの試練
退勤後、時計の針が19時を回ったところで、いよいよプラスチックの城を口内へ「ドッキング」!

 

練習を兼ねて、セブンイレブンへお買い物に行くことにいたしました。
本日のミッションは「チケット2件分支払いお願いします」というセリフを噛まずに伝えること。

 

道すがら、ブツブツと呟きながら歩く怪しいアラフィフ。


どうしてもチケットの「チ」が言えないの。試行錯誤の末、私はある法則を発見いたしました。

「Shh...(シー)」という、発音を意識すると、奇跡的に「チケット」と言える!

 

しかし、セブンイレブンのレジで私を待ち受けていたのは、なんと外国人の店員さん。

やべえ。私の「Shh...チケット」は、はたして異国の方に通じるのか……!?

息を潜め、小さな声で「Shh...チケット2件分……」と唱えたところ、神の慈悲か、どうにか無事に通じました!ちゃんと支払いも完了。背中に一筋の冷や汗が流れましたわ。



味を占めた私は、お次のステージ「まいばすけっと」へ。
ここでは「QUICPay(クイックペイ)で」という高難度の横文字に挑戦。これは意外にも、滑らかに美しく発音できて完全勝利を収めました。

 

……とはいえ、本日の社会生活における会話はこれだけ。
誰かと熱く語り合うわけでもないし、これでは一向に練習にならない。
というわけで、私は早々に諦め、お酒を飲んでみることにいたしました。

 

液体はさすがに普通に飲める。
ただね、口の中の3分の1を分厚いプラスチックに占領されているせいで、お酒が口いっぱいに広がるあの「至福の芳醇さ」を、脳が100%キャッチできないの。

 

入れ歯とは無縁な健常な歯をお持ちの方からすれば、「何言ってんだこいつ」と思われるかもしれないけれど、これが現実に直面した者の素直な感想なのです。

 

さらに、いつもの感覚でお寿司を口に放り込んだら、さあ大変。
プラスチックの体積のせいで、口の中がたちまち寿司でパンパンになり、とんでもない飽和感が発生。

お姫様のように上品に、チョコチョコと食べなければ、リアルに窒息してしまうレベル。

 

しかも、左側で噛むと歯茎がズンと痛むのよ。だから無意識のうちに、自分の健康な歯が残っている右側ばかりで噛んでしまう。


右側で噛んで、そこからうっかり左側へと逃げ出した食材を、ついでに左の入れ歯で「すり潰す」ような感覚。……ねえ、この切ないメカニズム、画面の前の皆様に伝わってます?

 

この不自由さのせいで、徐々に食べる気が失せていくの。
ああ、こうやって老人はご飯を食べなくなっていくのね、と妙に納得してしまいましたわ。

 

夜、YouTubeを見ながら、ユーチューバーの早口な喋りを永遠にシャドーイング(後追い発音)する特訓を開始。けれど、スピードに全然ついていけない。

「自立心」という高尚な言葉なんて、私の口を通ると「ジジツチン」になってしまう。これ、完全にバカボンのパパじゃないの(バカボンのパパは35歳と意外と若者なのである)。

 

さすがに、これをはめて社会にお披露目できる日はまだまだ先だと痛感いたしました。
でもね、その反動か、日中の会社(入れ歯なし状態)では、水を得た魚のようにめちゃくちゃよく喋れたわ。

 

正直、左の奥歯がなかろうが、ものを食べなきゃ喋る分には全く不便がないの。誰も私の口元なんて見てないことも、前回の型取りで重々承知しているから、すでに開き直りの境地に達しております。

 

仕事帰り、どうしても神頼みがしたくなり、虫歯の神様が祀られているという「日比谷白山稲荷」へ突撃してまいりました。


薄暗い境内で、もう必死にお願いしたわ。
すでに売店は閉まっていてお守りは買えなかったけれど、そのうち会社を定時ダッシュして絶対買いに行く。絶対よ。

ここまで来たら、信じられるのは最新医療ではなく神の奇跡だけ。

 

 

D+2:ポリデントの奇跡と、未知なる「デンチャー」との遭遇
本日も会社へは、例によって入れ歯をつけずに出勤。
お昼ご飯は、歯がなくても優しく微笑んでくれる「そうめんとクリームコロッケ」をチョイス。

 

そして夜19時、お決まりのドッキングタイム。
今夜の晩餐は、皮が強敵になりそうなミニトマト(※今はプチトマトって言わないのよ、知ってた?)、そして絶対に臭うであろう餃子と麻婆豆腐。もちろん、お供には命の水(お酒)。

 

ミニトマトに挑んでみたところ、上あごのプラスチックの天井部分に皮がべったりと残留。

相変わらず、まだ思い切り噛むのが怖いのよね。入れ歯もろとも、私の数少ない自前の歯までゴッソリもっていかれそうな恐怖があって。

 

ただ、ここで秘密兵器を投入いたしました。
週末の旅行に備えて、部分入れ歯用の安定剤(ポリデント)を試してみたのです。
これが大正解!昨日よりも隙間に食べ物が全然入り込まない。これ、いいぞ……!

 

そのおかげか、少しずつご飯の「味」が戻ってまいりました。
昨日はプラスチックの異物感ばかりに脳のメモリを奪われていたけれど、今夜はちゃんと美味しい。餃子も麻婆豆腐も、五感でしっかりと味わうことができました。

 

ここで私、一つの「コツ」を掴みましたの。
食べ物を口の奥へいきなり沢山放り込むと、てこの原理が働いて、大阪人並みに奥歯をガタガタ言わせる大惨事(ガタガタ状態)になる。
だから、まずは一旦、口内のアリーナ席――つまり舌の上のセンターに置く。
そこから歯で噛むというよりは、上あごを覆うあの巨大な「ピンクの床」で優しく押し潰し、徐々にスタンド席(左右の歯)へと広げていって全体で噛み砕く。
これが実にいい感じ!相変わらず、お酒だけはノーバリアで喉へと流れていきます。

 

けれど油断して左側だけで思い切り噛むと、やっぱり歯茎が痛い。
絶対に前部分の隙間から、餃子の具か何かが挟まり込んでいる手応えがある。

 

ふとスマホを見ると、驚くべき現象が起きていました。
これまで私のTikTokやYouTubeのおすすめ欄は、きらびやかなアイドルや大好きな推しのバンドで埋め尽くされていたのに、一晩にして「歯関係の動画」だらけに侵食されている。アルゴリズムって本当に恐ろしいわ。

 

でも、そのおかげで、世の中には思いのほか私と同じように入れ歯で悩んでいる同胞がたくさんいることを知ったのです。みんな感想が私と一言一句おなじで、ものすごく励まされた。

 

さらにYouTubeで「歯キュメンタリー」という、壮大な企画動画を発見。

 


www.youtube.com


なんと私よりも遥かに歯の状態が重症な方が、1〜2年かけて必死に治療に挑む感動のドキュメンタリー。あまりのスケールの大きさに、お酒を片手に見入ってしまいました。

その動画の中で、治療を受けている方が「先生、先生の口から『入れ歯』って言われると、心が著しく萎えるので、何かエレガントな横文字で言えないですか?」と訴えていたの。

 

そこで先生が提示したスマートな名称。それこそが、

 

「デンチャー」

 

入れ歯を英語で言っただけなのだけども響きが素敵(な気がする)。これからは私も入れ歯ではなく、我が口内の同居人を「デンチャー」と呼ぶことにいたしますわ。

 

デンチャー。

 

……嬉しくなって、さっそく口にしてみたのですけれど。

 

私の壊滅的な滑舌のせいで、何度言っても「ベンチャー」に聞こえてしまうの。

起業でもする気かしら。悲しい。

 

つづく